音に親しむ!:導入期の音楽レッスン


幼児の導入期の音楽レッスンは、とても重要で、その後の音楽との関わり方を左右すると言っても過言ではないと思います。

音に親しむ音楽レッスン

私はピアノを指導していますが、敢えて「音楽レッスン」としているのは、3〜4歳の幼児に、最初からピアノを弾くことを教えようとしない方がよいと思うからです。まずは、音楽に親しむ、いえ、音に親しむレッスンを心がけるべきと思っています。

何より、身体が小さく、骨格も未発達の幼児にとって、ピアノはとてつもなく大きく、鍵盤はかなり重く感じるはずです。この巨大な「物体」に最初から正面から向き合わせて「弾かせる」のではなく、まずは、ピアノと「仲良くなる」「友達になる」ような感覚で、レッスンを進めるのが良いのではないでしょうか。

私のレッスンでは、初めて来た幼児には、ピアノの鍵盤の下の音域から上の音域まで、まんべんなく「触らせ」ています。グー(拳)で打ったり、好きな1本指で押したり、手のひらでバンバンと叩いたり、、、など。

お行儀が悪いとお叱りを受けそうですが、拳や手のひらで「演奏」することは、「クラスター奏法」と呼ばれる、れっきとしたピアノ現代奏法の一つです。ちょっと眉をひそめられる保護者の方には、画期的な演奏をしているのだと説明するようにしています。

このようにして、導入期のレッスンでは、ピアノを通じて、音にはいろいろな色があること、そして低い音域と高い音域では何やら響きが違うぞ、ということを体感することによって、「音」って面白いな、いろいろな表現ができるんだな、ということを実感してもらっています。





イメージを育む音楽レッスン

以上のような私のレッスン方針にぴったりなテキストとして使用しているのが、↓の「リズムワークブック」(江口寿子著、共同音楽出版社)です。


このテキストでは、全音符をゾウ、2分音符をウシ、4分音符をイヌ、8分音符をネズミにたとえ、それぞれの鳴き声によって様々な音価を体得し、リズムをイメージできるようになっています。

全音符はゾウの鳴き声「パオ〜〜ン」、2分音符はウシの「モ〜」、4分音符はイヌの「ワン」、8分音符はネズミの「チュチュ」。生徒さんたちは、それぞれの鳴き声を声に出しながら、レッスン室を行ったり来たりします。ゾウは大きくどっしりと、ウシは少しゆっくりと、イヌは歩くように、ネズミは駆け足で...

動くだけでなく、「ゾウの音をピアノで出してみよう」「ピアノでワンワンと鳴いてみよう」などと言って、前述のようなクラスター奏法によってピアノを「鳴らす」体験をします。

このような、初歩の段階で自分がイメージした動物の音を出すという体験は、導入期を終え、本格的にピアノを学ぶレッスンに移行した際に、想像力豊かな演奏表現へと繋がっていきます。

全音符が、ゾウの「どっしりと重く」というイメージによって低音域に固定される恐れもありますので、子どものゾウも登場させて、中〜高音域にも「ゾウ」は存在することを認識させています。

その他、「病気になったウシさんは?」「怒ったワンちゃんは?」などと、様々なシチュエーションを与えて「音」をイメージさせ、そのイメージした「音」をピアノで出してみます。そして、自ら発した音がイメージ通りかどうか聴くという体験を、たくさんしていきます。

また、このテキストに付属している動物リズムカードを使って、ゾウ(全音符)のお弁当箱は大きくて、おにぎりが4つ入ることや、ネズミは小さいから1個のおにぎりを2匹で仲良く半分ずつ分け合うことなどを説明して、視覚的にも音価を認識させていきます。


レッスンが進むと、リズムカードを思い思いに並べて、リズムを作っていきます。はじめは好きなカードを好きなだけ並べ、並べたあと、「ワン、ワン、モ〜、チュチュ、チュチュ、パオ〜〜ン」などと言いながら、手や小物打楽器でリズム打ちをします。


その後、「ゾウさんのお弁当箱に入る分だけ、カードを並べてね」と言って、4拍子のリズムパターンを導入していきます。

生徒さんたちは「お弁当箱」に収まるようにと考えながら、様々にカードを組み合わせて「お弁当」を作っていきます。中には、「これはハンバーグ」「これはピアーマン」などと、「ごっこ遊び」をしながら作っている生徒さんもいます。

動物のリズムカードの裏には、それに相当する音価の音符が書かれていますので、半年ぐらい経ってからカードをひっくり返し、いよいよ「音符」の登場です。

今度は、音符を見ながらリズムを作り、リズムパターンを習得していきます。はじめの内は音符になっても、「ワン」とか「モ〜」などと言ってリズムを打ちますが、しばらく経つと、「タン、タン、ター」などと、リズムを打つ際に一般的に用いられている言い方に移行していきます。

聴く「耳」を育てる音楽レッスン

上記のようなリズム並べ(リズムの創作)と並行して、私が打ったリズムを聴いて、そのとおりにカードを並べる、というトレーニングもしていきます。

そう、聴音の導入です。

まずは、イヌ(4分音符)のカードだけを使って、「ワンちゃんがいくつ鳴くかな〜?」と呼びかけた後、私が「ワン、ワン、ワン」と言いながら手でリズムを打ちます。聴いた後、生徒さんは、聞こえた数だけイヌのカードを手に取り、順に並べていきます。

その後、ネズミ(8分音符)やウシ(2分音符)も交え、徐々に聴くリズムをレベルアップしていきます。

はじめはリズムの連なりに戸惑い、聴き分けができない場合が多いのですが、励ましながら少しづつ根気よく続けていくと、やがては、複雑なリズムも聴き取って、カードを並べることができるようになります。

このようにレッスンしていく中で、私はあることに気づきました。

幼児は、「自ら創る」ことに、とても興味を示すということです。また、「教えられる」という受動的な立場ばかりではなく、自分も先生の真似をして教えたいと思っているということです。

ですので、時には、先生と生徒の役割を交代し、生徒さんがリズムをつくって打ち、先生(私)がそのとおりにリズムを並べる、なんてこともしています。

時々わざと並べるカードを間違えて、生徒さんに「間違っていた」と認識させるようにします。そうすることによって、「自分のつくったものが正しく再現されているか」を注意深く聴く耳を育てることにもなります。

譜読みや、音楽記号、理論などを覚えることは、年令が大きくなってからもできますが、リズム感や音感、音に対する感覚やイメージなどは、やはり幼少期に育まれると言ってよいでしょう。

幼児期の音楽体験は、その後の音楽性のみならず、感性や感受性を育てる上でも重要ではないでしょうか。様々な創意と工夫で、生徒さんたちの可能性を、最大限に伸ばしてあげられるレッスンを心がけたいと、日々奮闘しています。


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